夏至

2023年7月1日(土)

ことしも六月が過ぎた。待っていた夏至の日も。家の中に湿った風がながれて、六月の風がやっぱりいちばん好きだなと思った。

何年ぶりだろう、口紅を買った。落ちついたピンク色。マスクをとって生活するようになったら、新しい口紅を買おう、ずっと前からそう決めていた。春になって、女の人の、赤やピンク、きらきらとした明るい口元を見るのは、とてもうれしかった。

お世話になっているホテルの方に、お花をお願いしてもらった。偲ぶ会の遺影を飾るお花。明るく楽しい会にしたい、というのがご希望だった。当日、遺影の前にお花を飾っていると、主催の方が到着して、とても喜んでくださった。それはまるで結婚式の高砂のように、晴れやかなお花だった。ことし生きていたら、99歳やったんでね。戦地にも行ったし、シベリア抑留も経験した、だから、ちょっとやそっとのことじゃ動じない、そんな親父やったんですよ。それで、写真の隣にいるのがお袋。この人はめちゃくちゃやさしい人やった。お花を設置しているそばで、主催者である息子さんが、遺影の中にいる、お父さんのことを、初対面のわたしたちに、気さくに語ってくれる。とても明るい笑顔で。

花を飾りながら、うつくしい時間の中にいることが、胸に染み入るように感じられた。あの小さな店で、つくったものが、こんなふうに、だれかの人生の大切な日を飾らせてもらうことができるのか。そう思うと、たまらなく、しあわせなことだった。

設置がおわり、ありがとうございました、とあいさつをすると、参列した方に配るようのお土産を手渡し、息子さんはエレベータの扉がしまるまでずっと、頭をさげてくださった。扉がしまってから、僕、花屋の仕事をしていて、あんなに深く頭をさげられたのははじめてやと思う、と旦那さんが言った。