春のおくりもの

本を読んでいて、これすごくいいなあ、と話すと、旦那さん、その人はもう何かが見えてるんやろうな、と言った。それで、ぼくも、もうだいたいのことは見えてますけどね、と言う。へえ、すごい。そしたら、5年前は、もっと、はっきり見えてた、スキーっと見えてた、と言う。え、そうなん、もっとクリアに見えてたん? じゃあ、今はぼんやり? そう、前より、ぼんやり。ぼんやりかあ。前のほうが見えてたんかあ。すると、ぼんやりでもいいんですよ、と言う。だって、それはフィルターやから、空気みたいにあいだにある見えないもので、それがくもっていようが、クリアでいようが、どちらでもいいんですよ。だって、うちがわのじぶんは何も変わらないんやから。そんなことを言っていた。ビールを片手に。わたしの視界はどうだろう。見えてきたものも、あるだろうか。